私は岐阜県恵那市にある三郷町という町で生まれ育った。コンビニもなければ娯楽もない。あるのは田んぼと森ばかり、そんな場所での暮らしは正直味気なく、結果として故郷を捨てて県都のお膝元で暮らすことになった。
先日テレビをつけると、地元特集で知った顔がテレビに映っていた。テレビをぼーっと見てるうちに、そういや故郷に久しく帰ってなかったなぁ…とふと思い、今朝になって思い立ったように車を走らせ故郷を訪ねた。
実家には何度か帰ってはいたものの、実家以外の場所によることもなく、本当に10数年ぶりくらいに故郷の小学校付近を歩いてみた。
歩いてみて驚いたのは、自分が小学生だった頃にあったものが、(劣化しているとはいえ)まだあったことである。
小学生時代毎日乗っていたバスのバス停も、バス停の表記は薄れたとはいえ変わらずそこに建っていた。
小学校のそばにある神社の鳥居。
ここに石を乗せると願いが叶うという誰が言い始めたかわからない噂を信じて、みんなでせっせと石を投げていた。
相変わらず鳥居には大量の石が乗っており、まだあの噂はこのあたりの子供に引き継がれているのかな?なんてことを思った。
小学校の方へ歩いていくと、どうやら大規模な修繕を行うらしく、グラウンドが閉鎖されていた。
敷地には入れないので遠くから校舎を眺めると、かつてこの場所で過ごした6年間が鮮明に思い出された。
小学2年生のときに作ったクリスマスケーキ、3年生の時の怖い担任の先生。6年生まで面倒を見ていたウサギたち。
どれもこれも今まで忘れていたエピソードが記憶のタンスから一斉に飛び出してきた。
ああ、これが故郷なのか。
自ら望んで出ていったこの故郷に、心のどこかで俺は帰りたいと思っているのかな。
そんなことを考えながら車に乗り込み帰ろうとすると、遠くに子供を抱えたかつての知り合いが見えた。
ああ、思い出の中での君は幼いままだけれども、実際にはこうして歳を重ねているんだね。
知らない間にそれぞれの時間を生きている。
故郷を捨てたもの、故郷に残ったもの。
かつて同じ場所からスタートしたそれぞれの人生は今、いったいどこにいるのだろうか。