暑い。電車めちゃくちゃ暑い。
マスクが蒸れる。
マスクが蒸れすぎて鼻が痒い。
ああ…この感覚、剣道の練習中に何度も感じたあの痒みだ。
面の中で汗達が顔面の上を躍り狂っている時に感じるあの痒みだ。
あの痒みが、今、俺のマスクの中で起こっている。
そういえば、高校の時に同じ部活だったあいつは元気してるかな。
思い出補正が強すぎて、あんまり正確な記憶ではないけれど、他人の体臭を嗅ぎ分けることができるって言ってたな。
あの時は「気持ち悪っ!」って思いながら笑っていたけれど、今でも「気持ち悪っ」って思って笑える。
人にはそれぞれ匂いがあるっていうのは確かにその通りだと思うけど、はたしてそれを嗅ぎ分けることに何の利点があったのだろうか。
でもきっと彼は、利点だとかそういうの抜きにして、純粋に他人の匂いを楽しんでいたのだと思う。
匂いと言えば一個思い出した。
あくまで噂だが、私の足はとても臭いらしい。特に革靴を履いた後の私の靴下は、友人いわく「兵器」とのことだ。
そんなに臭いわけないだろうと、昔実家で飼っている犬に、脱ぎたての靴の臭いをチェックしてもらった。
噛みつかれた。
犬の嗅覚は凄いというから、犬で検証しようとした俺がバカだった。犬からしたら、新◯結衣の靴下ですらきっと臭くて仕方がないだろう。
人間で試そう。
明くる日、人の家に遊びに来てグースカ寝ている恋人の鼻の上に、俺の靴下をそっと置いた。
その後、我が家が戦場と化したのは言うまでもない。
ここで1つわかったことがある。
それは「人の顔の上に靴下を置いてはいけない」ということだ。
我々はついうっかりこのことを忘れてしまう。しかし、今一度胸に手をあてて考えてほしい。
人の顔の上に靴下を置く行為に正当性はあるのか?
私はこの戦争でこのことに気づいた。
人類が忘れがちだが、もっとも大切なこと。
それに気づけた。
それ以降、私は他人の顔に靴下を置いてはいない。皆も、今一度置く前に一旦自分の行動を見つめ直してほしい。
その靴下は、本当に顔に置く必要があるのですか?