人の流れに飲まれながら、まるで下流へと流される落ち葉のようにぼくの体も駅へと吸い込まれていく。
行きたいお店があったにも関わらず、ぼくの体は既にコントロールを失っていた。
押し寄せる人の流れに抗うことは、落ち葉のように非力なぼくには到底なし得ることができなかった。
諦めたように駅の改札を通り抜け、ホームへと向かう濁流に再び飲み込まれる。この空間では流れに逆らうことは決して許されない。もし流れに逆らえば、無用なトラブルに発展しかねない。
ぼくは自らの意思を捨て、電車を待つ人達の列に並ぶのだ。
電車が来ると、人々は一斉に吸い込まれるようになだれ込む。私も同様に電車の中へと入っていく。多くの人が吸い込まれた車内はまさに飽和状態。身動きのとれない苦しい空間で、皆自らの意思を圧し殺し、じっとスマホを見つめ耐えている。
そんな中で、あるカップルがいた。
2人は満員電車という空間の中で、異質な別空間を生み出していた。その空間は私たちにも認識しえるが、彼ら以外の人間が立ち入ることは出来なかった。
その空間はまさに「愛」によって作られていた。
私は思った。
愛とは素晴らしいものだ、と。
愛があれば、地獄も天国へと変わる。
愛は、素晴らしい。
いいものを見せてもらったよ。
ありがとう。
どこかのカップル。